『異世界ナンパ』とは?
滝本竜彦の前著、ライト・ノベルが出版されたのが2018年の暮れ。その後、滝本は2003年に書き始め、令和になっても未完の作品、ECCOを完成させようとするも、依然としてなかなか筆が進まない。
そんな中、昔からお世話になっている角川の担当編集さんが「滝本さん、角川の小説投稿サイト、カクヨムに何か書いてみませんか?」と言ってきたので、「それなら流行りの異世界転生ものを書いてみようかな」と思い立ち、さっと書き始めたのが本作、異世界ナンパです。
『流行りのものを書いてみよう』などとかなり軽薄な感じではありますが、その一方でファンタジー小説を書くのは私の長年の夢でもありました。
もともと私はファンタジー小説が好きで、ファンタジー小説を書くために小説家になったという側面があります。
本書のイラストは、漫画版の構成を担当してくださっている、みやけりく先生に書いていただきました。冒険の始まりが感じられる、これぞファンタジーという素晴らしいイラストを見せていただいたとき、大袈裟ではなく思わず涙が滲みました。『やっと小学生の頃からの夢が叶った!』という実感をそのとき得られたからです。
まあそんな私の個人的なストーリーはさておき……。
どんな中身?
小説の中身はというと、タイトル通り、異世界に召喚された主人公がファンタジー世界でナンパする、というものです。
こう書くと非常に軽薄かつしょうもない話に思えまして、人に勧めるのをためらってしまいそうになるのですが、それでいて本作は私、滝本竜彦の最高傑作のひとつと言い切ってしまえるほどの自信作になっております。また、さまざまな新しい取り組みが作品の中でなされています。
たとえば主人公が異世界で習得する『スキル』は、すべてこの現実世界で実際に利用可能なもののみにする、という縛りを設けています。これは一見、異世界ファンタジーに人々が求める爽快感とはかけ離れたものに思えますが、瞬時に得られる紙のようにペラペラなスキルなどに何の爽快感、何のありがたみがあるというのでしょうか? 現実でも使える真の力こそがスキルと呼ぶに値するものであり、それを使って現実を本当に変えてこそ爽快感が得られるのではないでしょうか?
また、本作では主人公が異世界でナンパをしようと努力しますが、なかなかナンパはうまくいきません。それもそのはず主人公は引っ込み思案の無職のひきこもりだからです。街で顔を上げることすら彼には難しい。そんな彼はもっともナンパなる行為に縁遠い人間なので、異世界に行ったところで、おいそれとナンパができるようにはなりません。これは当然のことではないでしょうか? ナンパとは即時的に他者とのコミュニケーションを得ようとする試みのことです。他者とのコミュニケーション、それはそもそもこの世で最も意義深いことであり、それゆえに最も難しいことです。それを即時的に行おうとするのは、とてつもない難しいゲームをRTA的に超スピードで攻略しようとするものであり、その難易度はただコミュニケーションを普通に求めるよりも数百倍に高まるのは想像に難くありません。
ですから本作でナンパはそうそう簡単に成功しません。ですが一歩一歩、主人公はリアルなスキルを習得し、それによってジリジリと、他者とのコミュニケーションを求めて自分を変えて、前に進んでいきます。
そんな彼を取り囲んでいるのは異世界で、そこには恐るべき魔物が跳梁跋扈し、世界の危機が迫っています。ですがたとえ世界に危機が迫っても、ナンパを第一に考えなくてはいけません。なぜなら異世界であろうとこの現実世界であろうと、常に自分の世界には何かしらの問題が生じているからです。そんな問題に目を向けるよりも、我々は何よりもまず、自分が本当に心からこの人生で成し遂げたいことに集中し、それに日々、全力を注がなくてはならないのです。
主人公が彼の人生で何より望むことは何より、ナンパでした。
異世界に召喚されて初めてそのことに気づいた彼は、その行為を始めます。美しき人工精霊のサポートと共に、異世界ナンパを。
滝本竜彦最新長編『異世界ナンパ 〜無職引きこもりのオレがスキルを駆使して猫人間や深宇宙ドラゴンに声をかけてみました〜』2021年12月3日発売!
渾身の一冊です。ぜひお読みください。
また、すでに漫画も二巻まで発売されているので、ぜひそちらの方もお読みいただければ幸いです。