意識を機械化することは24世紀の技術をもってしても不可能事だった。そして、高度に発達した機械兵器同士の戦いにおいてこそ、人間の持つ意識の超越的性質『直感力などなど』が勝敗の決定的な要因であることは、造兵官の誰もが真っ先に目を通すべき創造の書『戦術兵器よろず作製マニュアル』その第一の部にこれ以上なく明瞭な言葉で表現されているとおりであった。

「ひとつ、機械には人魂をあたうかぎり押し込めるべし。その質、良なるものが望ましかれども、真に求むるべきは質より量なり」

 それは23世紀中葉より始まった彼岸戦争において陸海空宙および幽星界を含む、ありとあらゆる幅広いジャンルのキリングフィールドに拡張延展された殺戮戦のケーススタディーから学び取られた血の教訓である。

 より良いパイロットを可能なかぎり大量にコクピットに詰めこんだ方が勝つというシンプルなその戦闘上の事実は、マシンのコクピットの肥大化、巨大化、および外部化と、人間意識が機能するために空間に対して必要とするスペースのコンパクト化競争を招くことになった。

 いかに戦術殺戮兵器の人間意識収容部の容量を敵よりも拡張するか。

 また、人間意識の収容ハードをいかに高密度化するか。

 この2つの工学上の問題はこの第四世界の物理定数によって限界が定められており、各陣営、各造兵官は、演算を始めて七ミリ戦術単位以内に細部にいたるまで同様の戦術殺戮兵器のデザインに辿り着いた。そのような工学上の機械的な問題において敵との優位性を勝ち取ることはもはや不可能なまでに戦争は長く続き洗練されていたのだ。

 その演算の結果、マシンのコックピットは兵器の外部空間へとどこまも延長され、パイロットの容積は、針の頭よりも小さくなっていくという方向性の兵器が創造された。その広大無辺のコックピットの中に、原子、亜原子レベルの大きさのパイロットを詰め込んだマシンによって両陣営は激しい戦いを繰り広げた。マシンのコックピットは、すぐに宇宙全体の大きさにまで拡張したため、マシンの力の強弱、優劣は、最終的にはパイロットの意識の数量そのものという、あまりに人海戦術的な方向性によって決定されることになった。

 たとえば今この場、24世紀の駅のホームを見てみよう。

 その駅のホームの切符売り場を見てみよう。

 24世紀において戦いは無限に延長されており、全空間にキリングフィールドは拡張されているため、駅のホームの切符売り場もまた戦場であり、三次元空間のありとあらゆる任意の点には、工学上の限界まで高性能化され、最小空間に無限大の戦力を詰め込まれた戦術兵器が押し込められ、そこで各陣営が各陣営に対し永遠に終わらない戦いを続けている。ホームの切符売り場、そこの空気の粒、その粒の中の粒の中の粒の中の波、エネルギーパターンの波、そのサイン波の中に、無限に究極高度発展した戦闘ロボットが潜んでおり、そこで終わらぬ戦いを続けている。

 どの点、どの場、どの意味の中にも無限個の戦闘機械が潜んでおり、その戦闘機械のコックピットには無限にニュータイプ化された人間意識が数兆人分も詰め込まれている。

 数兆、というのが今のところの各陣営のマンパワーの限界である。人間意識は機械と違って無限の複製性を獲得することは叶わなかったのだ。よって空間の一点にさける人員は今のところ数兆程度に留まっているが、パイロット育成術は日に日に進歩しているため、空間の一点におけるパイロットの密度は無限を目指して漸進していく。

 それら海辺の砂粒の数よりも多いパイロットたち、その各員が各員の限界のポテンシャルを引き出すためのドラマとストーリーが彼らの心には与えられており、それによって主観的熱意は彼、彼女の限界値にまで高められている。そのような映画的な戦闘力向上術が戦闘機械のパイロットに関しては丁寧に施術されている。そしてそんなふうにコクピットに詰め込まれたエースパイロット、歴戦の戦士たち数兆人はいまも激しい戦闘を、駅のホームのある一点において、あるいは世界のあらゆる任意の一点において繰り広げているのである。

 そんな24世紀において、戦闘のフィールドは、時間も空間をも越え、北に南に、過去に未来に、無限のキリングフィールドに向かって延長拡張されているということはすでにさきほど説明したとおりであるので、彼らが戦う点はこの21世紀の駅のホーム、あるいは街角、あるいは学校の教室の中にまでも繋がっており、目の前の空気の粒の中を細かく虫眼鏡で見ていけば、その中、そこら辺に蔓延するサインウェーブが発している戦闘の響き、戦闘パイロットたちの熱い魂の鬨の声を、あなたもきっと耳にすることができるであろう。