ママ、今もよく覚えてる。その頃ママのオナニーライフのことを。それはもう完全に倦怠期を迎えていたわ。その日もママはいつも抽象概念と絡み合うのに使う、自分の心の中の空間にいたんだけど、七回目の自慰行為を終えた後、そこに残ったのは虚しさだけだった。ママはどうしても満たされない気分でいた。

 それで何かもっと刺激的な対象は無いかと、心の中の、あの透明な空間で、自分が知ってるありとあらゆる方程式をこねくり回して、何か新しいものを生み出そうとしていた。

 でもダメね。所詮、そんなことしても方程式のバリエーションが増えただけに過ぎなかった。カエルの子はカエルということね。小麦粉からお菓子を作っても、それは小麦粉から造られたお菓子に過ぎず、そんなのはもう食べ飽きてるということね。一つのテンプレートを使って描いた絵は、どれだけ複雑化させても、似たり寄ったりってことね。

 だからママは気づいたの。

 本当に新しい、想像を超えた何かと心の中で絡み合うためには、まだ見たことのない、心の中の別空間を探る必要があると気づいたの。

 つまり、いつも使ってる方程式と絡むための部屋、そのレベルはもう隅から隅まで探索を終えちゃっていたのね。心の中が一つの大きな建物だとしたら、その建物の、その階は、どの部屋も探索を終えてしまっていたってところね。

 だからもう何も新しい刺激がなくて、刺激が無いから、三度のご飯よりも大好きなオナニーも、つまんなくなっちゃったの。だからママは意を決して、心の中を、上か、下か、どちらかのレベルに掘り進もうとしたの。

 それでまず、ママは美しい曲線や幾何学模様で満たされてる、心の中のいつものオナニー空間から、下方向に降りて行くことにしたわ。部屋の床をドリルで掘っていく感じね。しばらく掘り進んでいくと、急に穴が開いて、ママはその暗い穴の中に真っ逆さまに落ちていったわ。

「いてて……」

 地面にぶつけた頭を撫でながら周りを見回してみると、さっきまで自分がいた数学オナニー空間とはぜんぜん違う場所に自分がいることにママは気づいたわ。

 そこは全体的に薄暗くって、湿っぽくって、ママが自分の心の中のホームにしている抽象的思考空間の清らかな美しさに比べれば、淀んだ沼地みたいなところだった。湿っぽい感情的な雰囲気の中で、いろいろな人や物の具体的なイメージがくっついたり離れたり、戦ったり、求め合ったりしている場所だった。

 そこにいて、渦巻いているイメージを見ていると、いろんな感情や欲望が自分の中に湧いてくるのに気づいたわ。それでママは気づいたの。

「あぁ、ここは普通の人間がオナニーするのに使う意識レベルなのね。昔は私もこんなところでオナニーしていたのね」と。

 つまりそこは、ママがいつもオナニーに使っている抽象思考空間よりも、一段レベルが下の、具象的、情緒的なイメージに溢れた空間だったというわけ。

 そこは映画とか本とか、テレビとかネットとか、学校とか家とか、普段の生活の中でよく見かけるイメージと感情が渦巻いている場所だったというわけ。

 ママはちょっとこういうのは、もうずっと昔に卒業しちゃってて、もうあまり好きじゃないの。

「もっと私は抽象度の高い、つまり意味濃度の高い、新鮮なネタでオナニーしたいのよ!」

 というわけで、ママはその湿っぽい退屈な場所から、またいつもの慣れ親しんだ抽象的な思考空間にまでハシゴで上り、次は、そのままもっと上方向の階層に進んでみることにしたの。

 下の方が昔に卒業したレベルなら、上の方に行けば、見たことの無い新しい空間に出られるはず。

 ということで、ママはいつもの抽象オナニー部屋の、ガラス質の天井に、のこぎりで穴を開けてみたわ。そしてハシゴをかけて屋根裏のような空間に登っていったわ。

「よっ、よいしょ……あら、真っ暗なのね」

 屋根裏の空間に登ると、そこは最初、夜みたいに真っ暗闇で何も見えなかったわ。ママは立ち往生してしまった。でもしばらくしてから左右を見回してみると、だんだん目が慣れてきたのかしら、真っ暗闇どころか、見たこともない星の海のような、一面の輝く無数の光の点で満たされた、無限の広がりの空間に自分がいることに気づいたの。そこは屋根裏なんかじゃなくて、光の海だったの!

 しかもその空間に満ちている無数の光の点は、よく目を凝らして見てみると、どれも呼吸するみたいに光の吸収、放射を繰り返していて、なんだかその一つ一つが意識のある生きた存在みたいだった。

「なにこれ、すごい! 屋根裏かと思ったら、ここはまるで生きてる宇宙みたい」

 ママは感動に息を飲んだわ。

 自分の心の中に、こんな素晴らしい空間があっただなんて。

 しかもそこは、階下の空間に満ちている抽象記号や様々な論理体系よりも、はるかに意味深い、無数の光たちで満たされてたなんて。

 ママは自分のオナニーの可能性が一気に開けたことを知って、全身が熱くうずくのを感じたわ。

「こ、これはたまらないわね。でも興奮を抑えてまずは調査ね。この光の粒たちは、一体なんなのかしら? ここはどこなのかしら? あのー、誰かー、誰かー、知りませんか?」

 ママ、大声を発してみたわ。

 普段の生活では引っ込み思案なママだけど、心の中では大胆なの。

 すると、かなり上の方に浮かんでいた、普通の光の玉とは違う、特に大きい光の玉が、ママの近くにすすすっとやってきて教えてくれたわ。

「光の粒、それは魂たちのことですね。ここは魂の海。輝いている点は、一つ一つが魂です。遠くから見たら粒ですけど、近くで見れば、どれもが巨大ですよ。ここはそんな魂たちがたむろしている空間なんです」

「魂って何?」

「あらゆる形あるものの本質です。あなたは下の方から来たんですね。下の方は具体的な世界だと聞いています。上の方に来れば来るほど、より存在するものは抽象的、本質的になっていきます。本質的なものが次元降下することによって、具体的なものが生まれます」

「なんであなた、そんなこと知ってるの? 賢そうね」

「私は天使です。もっともっと上の方から来ました。下に旅する途中です」

「へー」

 天使とは驚きね。

 ママは自分の心の中で、こんな意表をついた会話が自然に出来ることを不思議に思ったわ。

 だけど、そういえばママ、物心ついた頃からずっと、心の中で数式たちと組んずほぐれずの睦み合いをしていたわけで、彼らが沢山の、ママの想像のを超えた数学的発見と性的喜びを、ママの思考回路と肉体に与えてくれたことも確かよ。

 だから、心の中に自分の想像を超えた存在がいるってこと、それと交流できるってこと、それが私の想像を超えたアイデアを私にもたらしてくれること、それは当然といえば当然かもと、そのとき私には思えたの。

 そしてママはそのとき、閃いたの。

 あらゆるものは、こうやって、上から下へと降りてくる。

 超抽象的な魂の世界、抽象的論理的世界、具象的イメージ的想像的感情的世界、そして肉体的三次元的感覚的世界という、上から下への流れこそが、新しい発見やアイデアが、目に見える場所に生まれ落ちててくるのに使う、正常なルートだと気づいたの。

 となると、心の中のこの高い空間にいる、天使という存在は、私がいつもオナニーのネタにしていた数学的観念群よりも、より一層、抽象度の高い存在であり、それはつまり、まさに、私が求めていたフレッシュなオナニーのネタなのではないかしら。

 ママは獲物を前にした肉食獣のような気分を感じつつも、それを隠しながら、自称天使との会話を続けたわ。いくら人間の繊細な心の機微に興味が無いママとはいえ、いきなり欲望をむき出しにされて襲い掛かられたら、誰でも反射的に逃げたくなるだろうって想像はつくのよ。だから少しずつ、会話をして、親しくなってから、襲いかかろうとしたの。

「あなた、凄く光ってて大きいわね。天使って……こんなに立派なのね。ところであなた、こんなところで何してるの?」

「先程も言ったとおり、上の方から、下の方に向かって旅してます。どこかから下に降りられるんじゃないかと思うんですけど。なかなか道筋が見つからなくて難儀してます」

「それなら私がのこぎりで開けた穴と、ここまで登ってくるのに使ったハシゴがあるから、それを伝って下に降りて行ったらいいわ。もう一段下の空間にも、私が開けた穴があって、そこからさらに下に降りていけるわよ」

「それは助かります。でも下の方ってどうなってるんですかね?」

「この一つ下にある部屋、私が普段のオナニーに使ってた部屋は、ここほど綺麗でも眩しくもないけれど、まだまだ透明感があって綺麗な場所よ。でもそのもう一個下になってくると、ドロドログチャグチャしてて、湿ってて、私は好きじゃないわ。普通の人間はその領域で空想、妄想するのが大好きだけど、きっとあなたには居心地が悪いでしょうね。さらにそのもう一個下、ということになるのかどうかは知らないけど、私の肉体がある場所は、考えてみれば、いちばん不自由で、硬くて、いろいろなことが思い通りにならない場所。あんなところには行かないほうがいいわよ」

「第七層のことは噂に聞いてます。いろいろと制限が多い場所のようですね。でも、そこが私の目的地なんです。天使的にはもうこのレベルですら雰囲気が硬くて重くて苦しいんですが、なんとか一番下まで行けるよう頑張ります。あれはあれで興味深い領域であると小耳に挟んでいます。天使的には、確かにこれ以上、下に行ったら、完全に馬鹿になっちゃいますけど、仕事なんで頑張ります。あなたが開けてくれた下に通じる穴も、私が通るには小さすぎます。だから分裂して小さくならないといけません。分裂すると、馬鹿になります。でも多少、変になっても任務なんで、なんとしても一番下まで行くつもりです」

「このレベルで苦しいって、天使さん、あなたどれだけ上から来たの?」

「ええと。一番上、この宇宙の第一層の、そのもっと上です。あなたの肉体があるのが第七層。その一つ上が第六層、いわゆる星幽界、アストラル界ですね。その上が第五層、メンタル界とでもいいますか。今私達がいるここですね。魂たちがたくさんいるところです。そのもっともっと上、第一層よりも上、もう私にもよく思い出せない光のヴェールの向こう側から私はやってきたんですよ」

「私が普段、数学の方程式と戯れているレベルは何?」

「ええと、きっとそこも、ここと同じ第五層だと思うんですけど、あなたが登ってきたハシゴ1つ分、下の方だから、いわば下位メンタル界とでもいいますか。各層もより細かく見ると、その中に上下のレベルがあるみたいですね。だから私たちが今いるここは、詳しく言えば、高位メンタル界ということになります」

「ふーん」

 心の中の世界といっても、いろいろあるみたいね。

 いろいろ調査してみたら面白いかもね。

 でも、あれこれ天使と話すうち、だんだんママは、そもそもの目的を思い出してきていたわ。

 そう。

 そもそもの目的、それはまだしたことのない画期的なオナニーをすること。

 私は天使が言うところの第七層、物理世界にある自分の肉体の一部を激しく摩擦しながら、第五層、メンタル界という場所で、自称天使と名乗る眩しい発光球体に、自分の意識の体を誘惑的に近づけていき、誘惑の言葉を発したわ。ママ、人間社会では恥ずかしがり屋さんだけど、心の中でなら、いくらでも大胆になれるの。

「ところで……ねえ……天使さん。そんな長旅をするまえに、ちょっと私と遊んでいかない?」

 天使の放つ光はとんでもない強さと清らかさを持っていて、こんなのに貫かれたら、ママ、死んじゃう、消えちゃう、真っ白になっちゃう、と思ったわ。

 でもそんな強烈なオナニーこそがママの望みだから、それは望むところだったの。だからお願い、天使さん、私の存在の端から端までその強い光で貫いてと思ったわ。そこでもう我慢できなくなったママは、その欲望のまま天使に近寄っていって、がばーっと覆いかぶさろうとしたの。

 でも天使は少し後ずさるとママに言ったわ。

「あのー、それ以上こっちに近寄ると、あなたの下位三体に不可逆的な変容をもたらす量の光が注ぎ込まれちゃいますけど、いいんですか?」

「下位三体って?」

「あなたにわかる言葉で言うと、えーと、メンタルボディ、エモーショナルボディ、エーテリックボディの三つです。メンタルボディはあなたの思考回路を構成し、エモーショナルボディはあなたの感情を構成し、エーテリックボディはあなたの肉体のテンプレートというか、その基底となっているものです。つまり思考、感情、肉体、という、第七層におけるあなたの人格を構成するものの基底部分に、不可逆的な変容が起こりますけど、いいんですか? ダメな場合は、これ以上近寄らないで、あと二歩ぐらい遠ざかってください」

「不可逆的な変容が起こると私、どうなっちゃうの?」

「次元降下するときに心に身につけたヴェール、つまりエゴが薄くなります」

「エゴが薄くなると?」

「宇宙全体と繋がりやすくなります」

「全体と繋がると?」

「かなり気持ちいいでしょうね。今のところ、あなたの意識は、密度の高いプレーンの、粗いフリークエンシーに囚われて、あらゆる意識存在が本来受け取れるはず光、その一億分の一以下の量しか受け取れてませんから、もし宇宙全体とのつながりを回復したら、その気持ちよさは一億倍以上アップするということになります」

「ああっ、一億倍の気持ちよさ! それよ! それ! 私が求めているのは!」

 気持ちいいというワードに動物的に反応したママは、血に飢えた獣のように天使の放つ電撃的な光のパルスを全身で浴びようとして、彼に突進していったわ。

 そして自分のその獣っぽさに興奮したママは、天使の言うところの物理世界、第七層の、ママの実家のママの部屋の、汗に湿ったベッドの中で、これから始まるかもしれないより強烈で新鮮な快楽の予感に打ち震えている、当時まだ、ふみひろよりも若い可憐な高校生、今の若者言葉で言うところのJKだったママの、あの可愛い肉体の下腹部から、強い発情のインパルスが、電流のように駆け上がり、その振動が胸や頭にまで届いたかと思うと、それがさらにどういうわけか、天使が言うところの第六層、アストラル界を飛び越えて、その上の第五層、数式たちや様々な抽象概念がたむろしている低位メンタル界にまで達し、さらにそこからママが天井に開けた穴とハシゴを伝って、高位メンタル界にまで届き、球体の天使と体面していたママの意識の体に達し、そのママの透明な体を眩しく美しく発光させたことに気づいたわ。

 しかも光だけでなく、いままで一度も聞いたことのない綺麗な音までもがママの意識体から発せられていたわ。それが心の耳で聞こえてきたの。

 なにこれ、凄い!

 なのに天使は興奮するママから距離を取って冷静なことを言うの。

「あぁ、これはなかなかいい音と光ですね。あなたの低位三体の発する振動が、この領域、魂の世界にまで届いていますよ。これを浴びるのは気持ちいいです」

「だったら私とまぐわってよ!」

「そうですね。わかりました。あなたのエネルギーを受け取ったお返しに、私からもエネルギーを送ります。適度な量のエネルギー交換をしましょう。行きますよ。ちょうどいいだけ受け取ってください」

 瞬間、ママが身構えるよりも早く、天使から光のパルスが放射され、私の意識は真っ白になったわ。私はもっともっとと光の中で溺れながらより多くを求め続けたけど、でももう自分の光のキャパシティは、その一瞬の天使からの放射で一杯一杯になってしまったことを自分でもわかっていたし、天使も他に用事があったみたい。

「そうなんです。私はそろそろ行かねばなりません。でも、あなたのパーソナリティが発するその響き、形態を超えた高きものと交わりたいというその熱望が、きっとあなたの自身の魂を呼び寄せるはず。あ、ほら、来ましたよ。あっちを見てください」

 天使が言ったとおり、光の海の中を見ると、とある小さな光の点、その一つがぐんぐんこちらに近づいてきて、私の意識体と重なったわ。そしてその光の玉から、私の意識体へと、優しい光がしみじみと流れ込んできたわ。

 天使の発する光は、電気のようなビリビリする感じだったけど、こっちの光の玉、それがママに与えてくれる光は、ふわっとしてて、なんだか浴びていると気持ちがふわっとして気持ちいいの。

「そうでしょうね。あなたが今浴びている光は、自分の魂の光、自分の本質の光ですので。あなたにとって最高の滋養です」

 ママは思ったわ。本当にこれ、自分の魂なのかも。そう思えるぐらい、浴びてると心も体も気持ちよくなる優しい光が、ちょうどいい量、四方八方から浴びせかけられて、温泉に入った気持ちよさを五百倍したような幸せな気分になってきて、思わずママの物理肉体と意識体からは甘い吐息が漏れたわ。

「ああ……いいわ……」

「では私はこれで」

「ちょっと待って! 魂とか言ったって、自分の本質とか言ったって、結局は自分でしょ。確かにこれはこれでとてもいいけど、でも私は他の存在と交流したいのよ! じゃなきゃ興奮しないじゃない!」

「なんだか難しい人ですね。そんなこと言ったって、あなたは宇宙だし、宇宙は私だし、全員が宇宙だし、結局、全員、あなたなんですよ」

「え、そうなの? そうだとしても、とにかく、もっと、適度に距離感がある、他人っぽい存在と絡んだ方が、興奮するの!」

「ではそこら辺にいる他のソウルと交流したらいいでしょう。誰かー、この人とチームを組みたい人!」

 そう天使が声と光を発すると、辺り一面に広がっている光の海の中から、ふいに一粒の光がこちらに向かって近づいてきたわ。

 その光の粒は、ママに近づいてくるにつれてどんどん大きくなり、ママの魂と同じくらいの大きさになって、気づくとママの目の前に浮かんでいたわ。

「この魂があなたとチームを組みたいようです」

「え、そんな、まだ初めて会ったばかりなのに……よろしくお願いします」ママはもじもじしたけど、なんだかその魂は、とても感じが良さそうな存在だったから、ママはトキメキを感じながら承諾したわ。

「ではラインを繋げますね」

 天使がそう言うと、ママの魂の中心部にあるキラキラした宝石状のものと、目の前に浮かぶ誰かの魂の中心部にあるキラキラした宝石状のものが、光のラインで繋がれたわ。

 そして、二つの魂の間でコミュニケーションリンクが確立され、ママとその魂は、高速で様々な情報とエネルギーのやりとりを始めたわ。

「では私はこれで」

 天使はママの横をすっと通りすぎて、ママが開けた穴を通って、下の世界に降りていったけど、ママは目の前の魂との交流に夢中で、もう天使のことはどうでも良かった。

 それぐらい、この魂との交流は気持ちが良かったの。

 ママは思ったわ。

 これが愛か。

 私、この人なら、魂だけでなく、物理的な肉体までも、愛せるかもしれない。

 そう思うと、愛のフィーリングによってハートが開くとともに、恋と欲情によって子宮がうごめくのを感じたわ。

 これこそまさに恋愛ね。

 だからママ、ついに勇気を出して自分から聞いてみたの。

「ねえあなた、こういう遠隔的な交流もいいけれど、肉体としてはどの辺に住んでるの? 一度、私達、物理的に会ってみたくない?」

 それが人見知りなママとしての精一杯の勇気だったわ。

 でも、その魂は、「肉体? よくわかんない」という意味を表す光のシグナルを発したわ。

 どうもその魂、この物理的な世界に肉体を持っていないみたいなの。

 なんてことかしら。

 ママは苦悩したわ。

 会いたいのに会えない。

 好きなのに抱きしめられない。

 遠距離恋愛というか、遠次元恋愛というか、とにかく、あぁこれが世間で流れているラブソングに頻出する状況なのね、それは意外に現実的にありがちなシチュエーションなのねと、初めてママは悟ったのよ。

 でもママ、そんなことぐらいで諦めるのは性にあわないの。

 むしろこの状況を利用して、その魂を持った者と私の結びつきを究極的に強化する方法を考えだしたの。

 はっきりいって天才だと自分でも思うわ。

 それである日、ママは決心してそのアイデアをその魂に伝えたわ。

「ちょっとあなた、肉体を物理世界に生じさせてみるつもりはない? そんなに怖くないわよ。食事とか面倒で怖いことも多いけど、意外に面白いこともあるわよ。インターネットとか」

 その魂は「OK、いいね!」という意味を表す光を発したわ。

 それからその魂は「でも、どうすれば?」という、当然の疑問を表す光を発したわ。

 ママは答えたわ。

「簡単よ。肉体を物理世界に生じさせるには、誰かの子供として、それを生じさせたらいいのよ」

 その魂は「なるほどー」という意味を表す光を発したわ。

 私はさり気なく次の提案をしたわ。

「せっかくだから私の子供として、あなたに属する肉体を物理世界に生じさせ、それにあなたの意識を定着させてみない?」

 その魂は「OK、いいね!」という意味を表す光を発したわ。

 そこで私はより核心的な提案をさり気なく伝えたわ。

「じゃあ物理世界に私の子供として生まれた後で、私の恋人になってくれない?」

 その魂は「よくわかんないけど、OK、いいね!」という意味を表す光を発したわ。

 ママはさらにより究極的な提案を続けたわ。

「私の子供として生まれたあと、ママの恋人になって、ママと結婚して、ママにあなたの子供を産ませてくれない? そして究極の核家族を作らない?」

 するとその魂は「難しくて意味がわかんないけど、OK、いいね!」という意味を表す光を発したわ。

「絶対よ。後になって約束破るのは禁止だからね! あなたは、ママの子供として生まれた後、ママの恋人になり、ママの夫になり、ママと子供を作り、幸せな家族を作るんだからね! 絶対の絶対の約束だからね!」

「OK、いいね!」

 *

 ママはその日、通販で冷凍精子を取り寄せたわ。

 こうやって生まれてきたのがあなた、ふみひろなのよ。