こたつの上でロウソクが燃えている。それを僕はこたつの天板の上に頬杖をついて、近い距離からじっと見ていた。もふもふした触感の柔らかなこたつ毛布に、お腹のあたりまで包まれながら。

 この部屋は六畳ぐらいで、照明は僕の目の前のロウソクだけだ。

 どこにも窓は見あたらない。振り向くのは面倒なのでよくわからないが、もしかしたらそれは僕の背後にあるのかもしれない。だが、遮光能力のあるカーテンや雨戸が閉じられているか、あるいは外は夜なのか、あるいはやはり窓は無く背後にあるのは壁なのか、どこからも部屋に光は射し込まない。こたつの中央で燃えているロウソクから四方に広がっていく光だけがわずかに部屋を照らしている。

 目の前のロウソクの、その向こうにある壁、つまり真正面の壁には、色とりどりの何かのシールがたくさん貼られていた。

 少しだけ目を動かすことで見える左右の壁にも、暗くてはっきりと見えないが、やはり色とりどりの何かのシールが貼られていた。

 もしかしたらそれは、右から左、あるいは左から右へと続く、何かの物語を表しているのかもしれない。屏風に描かれた絵物語のように。

 もしかしたらそれは僕の背後にある壁にまで続いており、ぐるりと一回りして、最初の地点に再び戻る、ループ構造の物語を表しているのかもしれない。しかしそれは僕の想像かもしれない。

 左、正面、右の壁は、薄暗くてよく見えず、背後の壁は視界の外なので全く見えず、僕にできる動きと言えば、ほんのわずかに目を左右に動かすことだけだ。しかも瞼を開けておくことも一秒ごとに難しくなっていく。眠気が一呼吸ごとに深まっていく。

 すでに僕は眠っていて夢を見ているという可能性もあった。壁に貼られた色とりどりのシールは、それが表しているらしい何かの円環構造の物語は、僕の夢かもしれなかった。

 もしこのすべて、僕を取り囲んでいる壁や、色とりどりの物語や、揺らめく光が夢であるなら、僕は物理法則を無視して壁をすり抜けたり、空を飛んだりできるだろう。眠気自体も夢だとすれば、急に何の前触れもなく、眠気が醒めて、僕は元気になり、このこたつから立ち上がることもできるだろう。

 しかしそのような突拍子もない出来事が起こる気配はない。起こせる気もしない。だから長い間、こたつでぼーっとしていた。

 寝るでもなく、起きるのでもなく。

 もういっそ寝てしまった方が建設的だろう。

 そう思って目を閉じるときもあった。何度も目を閉じ、何もない闇の中に浸りこんだ。だが、そうすると逆に外部のことが気になってきて、また目を開けて、自分の外にある何かを見たくなるのだ。

 しかし僕のいる場所から見える範囲の外には、ぼんやりした壁のシールの朧気な絵の輪郭が見えるだけだ。それらはこたつから出てその近くまで歩いていって、それが本当は何なのかを探求しようとする精神的エネルギーの源としてはちょっと求心力に欠けていた。どうせ近くで見ても、触ってみても、大した意味のあるものではないんだろう。

 いや、あるいは、こたつから遙か離れて感じられるあの壁にあるシールの絵の連なりには何かの深い意味があり、それに接することは僕の人生に多大な意味をもたらすことになるのだとしても、だとしても僕にはこのこたつから出て寒そうなこたつ外の空気の中を何歩も移動して壁際にまで到達することなどとても出来そうになかった。

 だから僕はこたつの上でぼーっとし続けた。

 何も食べていないからか、生理的な欲求も特に生じることなく、何時間でもそのままでいられた。もうこたつに入ってから、少なくても一週間は経っているはずだ。

 このままあと一週間ぐらいじっとしてよう。

 僕は引き続きこたつに頬杖をついて、そう思った……その瞬間だった!

 なんと、ろうそくの炎が、何の前触れもなく消えてしまったのだ!

 僕は恐怖にとらわれた。

 何も見えない暗闇の中でこたつから出られないというその状況に僕は恐怖した。

「やばいな。怖すぎる」

 とても耐えられそうにない。

 仕方ない。

 僕は右手を動かし、ポケットの中を探った。

 記憶通り、そこにはスマートフォンが入っていた。

 それを使って僕は友達を呼びだした。

 回線の向こう、世界のどこかにいる友達は怪訝そうに訊いた。

「暗闇の中で一緒にこたつに入ってくれないか、ですって? なんで私がそんなことしなくちゃいけないの?」

「わからないけど、僕ひとりでは怖くて耐えられないから来て欲しいんだ」

 そこまで告げたあたりでスマートフォンの充電が切れた。

 そして僕はしばらくの間、ずっと闇の中で友達を待っていた。

 とても長い時間が経ったあと、暗闇の中で、何かが動く気配がした。

 こたつの正面に誰かが座ったのだ。

 こたつの内部は広いため、つま先は触れ合わない。

 でもきっと、誰かがそこにいてくれてる。

 だから僕は安らいで、それからの時間を安らかに過ごした。