私は誰もいない廊下をあてもなく歩いていた。

 学校の三階を歩いていた。

 廊下の壁も床も、窓から見える校庭も、それ自体が光を発しているようだった。

 まるでソフトフォーカスの写真の中。

 今はまだ、私は魔法に包まれている。

 魔法の流れに包まれて、導かれるように歩いて行く。

 そしてふと、通りすがりの、見知らぬ教室を覗き込んだ。

 高校の教室、日が暮れかけていて、誰もいない。

 窓から差し込む夕日が、机の上を赤く照らしている。

 窓際の一番後ろの机には、デッサン人形が載っていた。

 私は誘い込まれるように教室に入ると、人形の目の前に着席した。

 木目が見えるまでデッサン人形に顔を近づけ、話しかける。

「マスター、答えてにゃ」

「…………」

 デッサン人形は何も答えない。

 *

 私は窓の外を見る。

 風に流れていく雲、少しずつ沈んでいく夕日。

 群れをなしてどこかに向かう黒い鳥たち。このままでは日が暮れてしまう。そして闇に包まれた私は、完全に魔法を忘れ、より一層、自分の本質を、忘れてしまう。視界に映る机たちは、教室の壁や床は、もう柔らかさを失って、命を失って、そこにあるのは意味のない、硬い物質で出来た世界、それが私を取り囲んでいるように見えてきている。

 完全に魔法を忘れる、その前に早く、何かをなんとかしなければ。

「そう、早く、なんとかしなけりゃいけないにゃ」

 そう、この焦り、この感覚を私は知ってる。

 これは試験の焦り。

 何の試験?

 数学、国語? 保険体育? 違う、そんなのじゃない、物理でも歴史の試験でもなくて、それは『本当の私』に関係がある試験。

 上位魔法の試験。

 きっと私はその試験会場にいるのだ。

 *

 すでに試験は始まっているのだろうか。

 首を巡らせ、教室内をよく観てみる。

 わからない。

 私は再び問う。

「マスター。試験の課題は何かにゃ?」

 答えはない。デッサン人形は微塵も動くこと無く、私の鼻先でつるりとした木目を私に見せているだけだった。

 *

「…………」

 静かだ。

 校庭に人影は無く、さきほど廊下を歩いていたとき、学校をあてもなく散策していたときも、誰ともすれ違うことは無かった。

 職員室にも、どの教室にも誰もおらず、私が目にすることが出来た自分以外の人間らしきものは、このデッサン人形のみだった。そしてこのデッサン人形は、親しげなヴァイブレーションを発しており、私を招いているようだった。それゆえに私は判断したのだ。

 このデッサン人形こそがマスターであり試験官であると。

 しかし答えはない。

 ということはまずは意思疎通、そこから始める必要がある。

 それが最初の課題なのねと私は判断し、さっそく意思疎通のための魔法を使うことにした。

 魔法。

 もうほとんど、それを忘れてしまっている。

 どこまで思い出せるか。

 問題となるのは、この試験会場となる、私にとってよそよそしく感じられる世界の中で、どこまで私の精神が、魔法の使い方を思い出せるかだ。

 そしてそれは、私がどれだけ『本来の自分』、沢山の次元にまたがって存在している、大きな自分のことを思い出せるかにかかっている。

 今の私の在り方が、本来の自分にふさわしい在り方と、距離が離れていればいるほどに、魔法を使うことは難しくなっていく。

「…………」

 不安になってきた。

 今の私は、大いなる多次元的自己どころか、この小さな肉体すら、どんなのなのかよくわかっていない。わかっていないし、この肉体にはなんだか違和感がある。私の身体って、元からこんな感じだったっけ、と。

 調べなければ。

 ということで、私は両手で自分の身体をまさぐって調査を始めた。

 上なるものを理解するにはまず下から、という魔法のセオリーに従って。

「…………」

 そもそも私はもっと背が高かった気がする。頭一つ分ほど、前よりも低くなっている感じがする。その『前』というのが、いつのことを意味しているのかはわからないけど。

 そして髪、それは黒く、肩甲骨まで伸びている。撫でるとくすぐったいような気持ちいいような。

 もし私に完璧な髪があるとしたら、それはどんなものか。より私の本質を十全に表す身体が合ったとして、それが持っている髪は、私よりも長かったか短かったか? しかしそれはやはり思い出せない。

 夢の中で、夢の外を完全に思い出すことはできないのと同じ。試験会場の中で、試験の外を思い出すことは難しいということ。でなければ試験にならないから。

 しかしこの髪の長さ、この髪質に、そんなに違和感は感じない、だからこれはこれでいい。

 だが耳。

 これは明らかにおかしい。

 顔の両側に一対ずつ耳がある。

 その一対の耳、それしかない。頭の上の方にもう一対、自分の意思に応じて自由に動かすことのできる大きな耳が、きっとついていたはずなのに、それがついていない。これには大きな問題を感じざるを得ない。おそらく物理的な刺激にのみ反応し、霊的情報を受取ることが難しくなるような制限が、今の私の聴力に生じている。だが無いものはないのだ。この一対だけの耳という頼りない装備で頑張るしか無いだろう。

 次は胸。前はもっと柔らかい触り心地があったはずだが、いまはそうでもない。だがこれはこれでいい。腰。これもいい。

 おしり。ここには明らかな違和感がある。ついているべきもの、尻尾がない。尻尾がないと様々な感情表現をすることができない。尻尾がなければ。感情とともに自由に流れて今という時間の中にグラウンディングして存在することが難しい。

「つまり、このボディには、二つの大事な器官がついていないということにゃ。動かせる耳と長い尻尾を失ったというわけにゃ。直感的霊的聴覚と感情のフローに問題があるってことにゃ。こんなことで魔法を使えるのか不安にゃ」

 不安だ。

 しかしまあ、ポジティブな方向性を探そう。

 方向性。

 その起点となるべきボディはひと通り走査できた。

 となると、次は名前だ。鞄の中に手を入れ生徒手帳を取り出す。そこに顔写真と共に書かれていた名前は、美那。

「私の名前、それは美那。そういうことになってるみたいにゃ。でも本来の、本当の名前は……」しばらく考えると思い出すことができた。

「そうにゃ。私はミーニャにゃ」

 ミーニャ、ミーニャと何度もその名を繰り返す。そのたびに違和感は少なくなり、その響きがしっくりと胸の中に広がっていく。名前はミーニャ、これで間違いないと感じられる。

 名前という真の自己の片鱗を取り戻した私は、前もって心の中に貯めておいた非常用の魔力が湧き出てくるのを感じた。それはほんの少しだけの魔力。でもこの魔力があれば、耳が一対、減ってしまっていても、生きた世界とのつながりを失い、魔力の補給経路が絶たれた今でも、マスターとのチャンネルを形成するぐらいはできるはず。

 私は少ない魔力を集めて、眉間に集中し、意思疎通のためのシンボルを心の中に描いた。想像の中、心の中に、三角形を三つ重ねたような図形が浮かび上がった。それを眉間にあるサードアイを通して、目の前にあるデッサン人形に重ね合わせ、右手の平を使って、デッサン人形に染み込ませた。

 この魔法により、デッサン人形との間にコミュニケーション・チャンネルが形成された。

 成功だ。

 空気は何も震えていない、鼓膜も何も震えていない、でも心の耳に、微かにそれは聞こえてくる。

『ミーニャよ』

「はいにゃ! マスター」

『よくやった。第一関門は突破した。時間がない。よく聞きなさい』

「オーケーにゃ。なんでも試験問題を出すといいにゃ」

『驚かずに聞きなさい。これは試験ではない』

「ええっ!?」

 私は驚いた。

『驚くなと言っている。これは試験ではない』

「えええっ!?」

 私は驚かずにはいられなかった。そうこうしている内に魔力が揺らぎ始め、マスターとのチャンネルは不安定になっていった。

『最低限のことのみ伝える。すでにお前は試験に合格し、エクスプローラーとして、私と共に、巡礼の旅に出ていた』

 *

 旅から旅、世界から世界、次元から次元、星系から星系、惑星から惑星へと旅を続け、エクスプローラーとして我々は数多の世界に光をもたらしてきた。

 その旅の途中、闇の霊に襲われたお前は、心に大きな傷を負い、空と次元を渡り歩く力を失い、重力に引かれて、その迷宮めいた惑星世界へと落下した。

 私がいる世界からは、お前のいる地の底へは、もはや手が届かない。

 この通信もまもなく途絶するであろう。お前はまもなくその世界の重力に心を奪われ、真の自分との接続を完全に見失うだろう。そして最初からその世界で生まれたものとして、その世界に属するものとして自分自身をアイデンティファイするようになるであろう。

 だからミーニャよ、その世界の中で、自分自身を見失いつつも、お前自身がお前の力で、傷を癒やし、自分を取り戻し、世界を超える力を取り戻すのだ。そして自らの感情と思考のマスターとなって、世界の壁を超えるのだ。

 そのための手順として、ミーニャよ。

 かつてお前が合格した試験、上位魔法の塔でのあの試験を思い出すがいい。

 武器もなく身を守る盾も無く、試験官によってすべての魔力を奪われたのちに、塔の奥、魔物のうごめく闇の迷宮に突き落とされたあの時、ミーニャよ、お前がどうやって、力を取り戻し、魔物を打ち倒して試験に合格したのか、その方法を今こそ思い出し、それを再度、この本番の緊急事態の中で実践するのだ!

「はいにゃ! マスター! 緊急サヴァイバルのための手順その1を実践するにゃ! エクスプローラーの基本技能、その世界における自分の身の回りにある環境を利用して、何もない無から、私の身を守り、私の知覚を拡大し、私に私を取り戻させる、聖なる護符、聖なるアミュレットを創造するにゃ! そしてそのアミュレットを心に身につけ、各種パラメータをブーストアップして、世界の壁を超えるだけの突破力と、重力を振り切るだけの上昇速度を身につけるにゃ!」

 *

 もうマスターの声は聞こえない。

 それでもなお私はデッサン人形に意識を集中し続けた。声が聞こえなくなったあともしばらく、デッサン人形は私を励ますように、魂を鼓舞するヴァイブレーションを伝えてくれた。

 しかし私の魂は、そろそろ眠たくなっていた。私は当面の行動指針を鞄から取り出したメモ帳に書き込むと、机の上に頬杖を付いた。

 そして夕日の赤さにうっとりとなりながら、ちょっとだけ、ほんの少しだけ、眠ってしまった。

 *

 目を覚ますと、いつしか校舎には人の気配が溢れていた。

 グラウンドでは野球部が練習をしていた。

 彼らのかすかな掛け声とボールを弾くバットの金属音が聞こえてきた。

 廊下では女子の誰かがおしゃべりしながら歩いていた。まもなく教室に数人の女子たちが入ってきた。

 私はデッサン人形を鞄に隠すと、体に身についていた自然な反応でその子たちに挨拶をし、少しの間、自然に会話をして、教室を出た。

 *

 見知らぬような、よく見知っているような、寝ぼけているためか、いつもより少し不思議に感じられる校舎の廊下を早足で歩く。

 歩きながら、意識がさまよったときによくする自問自答を心の中でする。

『ここはどこ?』

 私の通う高校の校舎。今日は休日だから、部活動などで用事がある生徒しかこの学校にはいない。

『私は誰?』

 高校二年生、耶麻川美那。

『いまはいつなの?』

 高文連の文芸コンクールの締め切りが近い九月の日曜。

『私はここで何をしてるの?』

 文芸コンクールへの応募作を描き上げるため部室に向かっている。

 そうだった、私は文芸部部長。

 早く作品を描き上げなくちゃいけないのだ。

 *

 廊下を歩き、人のいない方を探して歩き、気が付くと、旧校舎の、部室棟に私はいる。

 一番奥から2つ目の扉、そのドアノブを回し、中に入ると、そこにあるのは会議机とパイプ椅子だけの殺風景な部屋、私の部室、文芸部。

 鞄の中からデッサン人形を取り出して、机の上に置き、椅子に座る。

 このデッサン人形は、私の話し相手。

 いつも小説を書くとき、この人形と会話しながら書き進める。

 人形は小説の中のいろんなキャラクターになるときもあれば、私にアドヴァイスをくれる賢いガイドになってくれるときもある。

 私は鞄からメモ帳を取り出し、そこに書かれているアイデアを読む。

「なになに? 『聖なる護符を作る』これはどういうことかにゃ? 自分で書いたアイデアのメモのはずだけど、まったく意味がわからないにゃ」

 自分一人のときに思わず口をついて出る、語尾が『にゃ』となる口癖で独り言をつぶやきつつ、私は腕を組んで考えた。

 いくら考えても意味がわからなかったので、とりあえずそれはタイトルに採用することにした。

 鞄から原稿用紙を取り出し、その一行目に『連作短編集・聖なる護符』と書き込んだ。

 しばらく考えこんで、聖なる護符という字を消しゴムで消し、辞書を引いて、英語にした。

 *

『連作短篇集 セイクリッド・アミュレット』

 *

 そしてデッサン人形と空想上の会話を続けながら、部活で、そして日が暮れたら自宅で、ときには教室で、小説執筆という、いつもの部活動を開始するのだった。

 *

 原稿用紙を鞄から取り出し、執筆。

 一枚書けたらもう一枚、原稿用紙を鞄から取り出し、執筆。

 *

 眠くなったら腕に頭を乗せて目を瞑る。

 するとデッサン人形が意味のわからないことを教えてくれる。

『ミーニャよ、すでに意識レベルはダイレクトに魔法を使うことができないところまで低下しているミーニャよ。しかしそれでいいのだ。お前が今いる世界の中に生じた設定を臨機応変に活かして何かを創作し、その創作物によって強さを取り戻す、それこそがエクスプローラーの魔法。今、与えられている材料を元に護符を作るがいい』

「はいにゃマスター、はいにゃ、マスター」

 マスターって誰、なんのこと? わからないけど、そんな夢を見て、そんな独り言を唱えながら、私は小説を書き続けた。

 *

 高文連のコンクールには小説は間に合わなかった。

 たまにいろいろな子に声をかけて文芸部への勧誘活動もした。

 いつまで経っても誰も文芸部にはやってきてくれなかった。

 それでも机の上には十個の、私が書いた小説の原稿用紙の束が乗っていた。

 書き上げたときになって、私はその短篇集のタイトルの意味がわかった。

 もしかしたらこの小説たちは、誰にも読まれないかもしれない。

 コンクールにも応募しないし、部員も私以外いないから、誰にも読まれないかもしれない。

 でもこれは小説でありながら、お守りでもある。だからこれは、私がそれを読んだことにより、少なくとも、私の役には立ったのだ。

 この可愛い小説たちは、私の心の一部となった。それは私の心を守ってくれるお守りとして機能する。私のための聖なるお守りたち。

 嬉しくなった私は、デッサン人形に、小学生のころ初めて書いた小説のキャラクター、『猫のミーニャ』の口調で話しかけた。

「聞いてほしいにゃ。私が書いた小説を読みあげるから聞いて欲しいにゃ」

 私はひとり二役で、デッサン人形のパートを受け持った。

『わかった。読み上げるがいい』

「まずは自信作、邪神とわたし

私はその小説を読み上げた。

『それはどういう効果を持った護符なのか?』小説を読み終わった私は、すかさずデッサン人形の声で自問し、そして自答した。

「これは、物凄く最悪な状況の中で、そこから抜け出すための魔法のお守りにゃ。完全にゲームオーバーと思われる状況に陥った時も、必ずやそこから抜け出すことができるという確信を、護符の装備者の心の奥深くに焼き付ける護符にゃ。これはとても強力なアミュレットにゃ!」

 デッサン人形は納得したようだった。

 私は次々、デッサン人形に小説を読み聞かせ、そのお守りとしての効果を説明していった。

 その小説が私の精神に、そして読まれることがあったらの話だけれど、私以外の読者の精神に、どんな効果をもたらすのかを説明していった。

『風子の旅立ち』

 これは出会いと別れというものに由来する寂しい感情を、通常の三倍の早さで消化する効果のある魔法にゃ。別れが想像上のものであれ、実際のものであれ、過去のものであれ、未来のものであれ、この護符をその別れの想像図、シチュエーションに重ねることで、感情と思考回路から、苦しい要素を取り除き、その状況から良いものだけを引き出す助けとなるにゃ。

『新宿の魔法使い』

 これは召喚魔法として機能する護符にゃ。この護符の中にサーキットとして埋め込まれている召喚魔法を実際にこの小説を読んだ人間が使えるようになるにゃ。ただ何かを願うだけで、何かいいことが起きて願いを叶うにゃ。必ず求めれば何かしらの助けが来るという考えを信じられるようになる護符にゃ。

『瞳ちゃんと僕』

 これは人生を変える効果を持つ異界と、そこにアクセスする能力を持つ人々と、自分の普段の日常生活とをシームレスに接続する効果を持った護符にゃ。

『ファインド・シークレット・イン・スノーデイ』

 狐と仲良くなれるかもしれないにゃ。動物や植物や自然現象と、自分との間にコミュニケーション・チャンネルを形成するにゃ。そして必要な情報やエネルギーを受け取れるようになる護符にゃ。神聖幾何学への感受性を開く効果もあるにゃ。

『探偵部、ダンスパーティに出動す』

 とても疲れ果てたときに使う護符にゃ。今、抱えているすべての仕事、すべての自己像、自分という存在のすべてを忘れて、闇の中でぐっすりお休みするための護符にゃ。宇宙を一度、お休みモードにして、そのお休みモードの中で深く深く、ゆっくり休むにゃ。そしてそのお休みモードが終わり、再活動モードになったとき、凄く元気になり、若返り、新たな何かが芽生えるようにする護符にゃ。その休息、活動サイクルを円滑化し、再調整するための護符にゃ。不眠症や、疲れがとれないときによく効くにゃ。使うときは、この小説の最後の部分にある『宇宙の夜』を想像し、その闇の中でぐっすり休むといいにゃ。

『ホワット・ア・スウィート・ワールド』

 葛藤を滑らかに解決するための護符にゃ。二つの別々のものの間に生じている対立が、ふわっと非接触的に解決される可能性を心にインストールするための護符にゃ。そのようなアイデアの流入により、護符の装備者の世界における葛藤は数割ほど自然に溶けやすくなるにゃ。

『愛・ロボット』

 ハートをほっこりさせる護符にゃ。エモーショナル・ボディのバランスを取り、怒りや憎しみという重いヴァイブレーションが細胞レベルで浄化されていく護符にゃ。豊かさの感覚や守られている感覚が根付きやすくなる護符にゃ。

『いくつもの愛、重ねあわせて』

 手がけているプロジェクトや仕事に新たな方向性を吹き込む護符にゃ。古くなった自己像を手放す勇気を与える護符にゃ。社会や人々との関係性を新たにし、自分の本当のミッションに気づくことができるようになる護符にゃ。

『こたつろうそく』

 心と身体の深い変容のためにせざるを得ない無への突入を、気持よく快適に、安らかに行うことができる護符にゃ。この護符を装備すれば、本当の神秘の瞬間を、怖さを感じることなく、やすやすと体験できるようになるにゃ。

『月見ヶ丘にようこそ!』

 創作の秘訣が封じ込められている護符にゃ。新たなエネルギーを形にすることが容易くできるようになる護符にゃ。

 *

 私は十個の護符のタイトルと効果を、デッサン人形に説明した。

 デッサン人形は、よしよしと、私を褒めてくれているようだった。

 そのような、温かい雰囲気が、デッサン人形から伝わってきた。

 私は背伸びして部室の窓の外を見た。もう暗くなってきていた。

 私は机の上に散らかった原稿用紙を集め、鞄にしまった。

 デッサン人形も、鞄にしまった。

 秋の空気は少し肌寒い。

 私はパイプ椅子から立ち上がり、壁にかけておいた上着を着て、部室を出て、鍵をかけて、自宅に向かった。

 *

 帰宅した私はご飯を食べ、ちょっとママと姉とテレビを見てから自室にこもり、仕事の続きを再開した。

 おまもりのような物語を紡ぐという仕事の続きを。